中村屋のボース 中島岳志著中村屋のボース 中島岳志著 平成17年 白水社私にとって、近年いちばんのヒット!といっても過言ではありません。 本年2月25日に、横浜の有隣堂にて購入。 新宿中村屋といえば、「インドカリー」。 だれもが認めることでしょう。 昭和初期からの看板メニウで、いまも大変な人気を誇っていますよね。 しかし、このカリーの発祥に、インド独立運動と、戦時の日本に関わる大いなるドラマが潜んでいようとは....。 R・B・ボースという、20世紀初頭のインド独立運動においてさまざまなテロ活動に携わった過激な運動家が、イギリス官憲の目を逃れて日本に渡り、そこで祖国の独立を支援しつつ、日本のナショナリズム高揚と十五年戦争への流れに否応なく飲み込まれていくようすが、厖大な資料をもとに、あざやかに活写されています。 「新宿中村屋」という誰もが知っているキーワードからして、つかみはOK! そこから近代アジアのナショナリズムという、とっつきにくい問題に鋭く切り込む著者の力量、というより熱意には、驚嘆すべきものがあります。 さらに、銃撃戦あり、逃避行あり、ロマンスあり、そして人間ドラマあり。 エンタテイメントとしても、一級の魅力を持っています。 著者が述べているように、ボースが日本の「大東亜」構想に、最終的には迎合、あるいは恭順してゆく過程には、なにか不自然なものを感じます。同時代の日本の思想家たちよりも明確な汎アジア思想(多分に宗教理念によるところが大きいが)を持っていたにもかかわらず、なぜ、結局は日本の国益のみを重視するような政策・軍事行動を後押しすることになってしまったのか。 ここに、ふたつの国のアジアでの在り方をめぐって逡巡したボースの、いいようのない苦悩を感じ取ることが出来るのは、私だけでしょうか。 筆者の中島氏は、大学の卒業論文でこの問題に取り組み、博士論文での成果をもとに、普及書として見事に本書をまとめあげました。若い人達のこうした素晴らしい仕事には、感嘆を禁じ得ません。 思えば、日本の「近代」とは如何なるものか、学校できちんと教えられたことは、残念ながらなかったように思います。おそらく現在でも、それと正面切って取り組む覚悟のある教師、学校はないでしょう。それはとりもなおさず、日本という国家が20世紀初頭におこした功罪にたいする客観的な評価がいまだになされていない事実を示すものではないでしょうか。 何やら不穏な空気がただよう昨今、本書から学ぶべきところは非常に大きいと思います。 蛇足ながら、装丁もとてもステキです☆ ぜひ、手にとってください!! |